アカデメイア・オブ・コンプライアンス
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 ワークライフバランスという言葉やその考え方についての情報がテレビや新聞を賑わせ、“ワークライフバランス”が専門家や問題意識の高い一部の人のものであった時期が過ぎ去ろうとしています。

 そしてワークライフバランスを向上させるための取り組みは、国や経済団体など特定の個人や団体による活動の域を超えたレベルにまで高まりつつあります。

 ワークライフバランスの未来はどうなっていくのでしょうか?ここではワークライフバランスの将来像を仮説として提示します。

【現在のワークライフバランスの位置づけと想定される課題】

2007年7月22日

[概況]

 「仕事と生活の両立支援」を行っている事業者や団体が、仕事と生活を両立させるための助言や育児支援等のサービス提供をビジネスとして相次いで拡大し始め、“ワークライフバランスコンサルティング業”や“ワークライフバランス支援事業”が本格的に立ち上がろうとしています。

 今後は、上記及び類似・関連したサービスの提供を目的とした事業者による新規参入が増えてくることが想定されます。

 現在のワークライフバランスは「運動」から「事業」へ、そして「産業」へと発展・拡大していくための”はじめの一歩”という位置づけにあると言ってもよいでしょう

 [企業にとっての“ワークライフバランスの近未来”と想定される課題]

 ワークライフバランス施策の導入は

  • 現有社員のモチベーション
  • 優秀人材のリテイン
  • 新卒・中途社員の採用活動

の各面でプラスの効果が期待できるので、企業のワークライフバランスに対する関心はますます高まり、施策の導入を真剣に検討する企業の数は増えていくでしょう。

 今後想定される課題や懸念事項としては

  • 検討や導入に伴うコストがどの程度になるのか
  • (導入後)仕組みの維持費用を負担し続けられるか
  • 本当に業績向上につながるか(投資に対するリターンが得られるのか)

などが挙げられます。

 中小企業における2007年の賃上げ率や大企業での夏のボーナス支給額は上昇基調にあり、企業の人件費に対する見方の厳しさは一時に比べて緩みつつあると言えます。このまま景気や業績の拡大が続き、財務的な面で大きな問題が起こらなければ、ワークライフバランス施策は徐々に普及していくと思われます。

 但し、流通業・サービス業の人手不足やそれに伴うパート社員の時給引き上げなど財務上の圧迫要因になりかねない問題を抱える企業もあります。

 「ワークライフバランスの向上」という視点においては、少子高齢化意識が高まっている”世間のムード”や企業の人手不足感がその普及を後押ししているので、短期的には追い風が吹いていると言えます。しかし、中長期的に見れば不安定要素もあり、必ずしも楽観視できません。

 [ワークライフバランス事業者にとっての“ワークライフバランスの近未来”と想定される課題]

 先行している既存のワークライフバランスコンサルティング会社等に加え、既にワークライフバランス施策で実績を残している企業のベンチャー事業化やその他異業種からの新規参入が起こるなど、徐々に競争が激しくなっていくことが予想されます。

 また、顧客にとって“ワークライフバランス”という言葉や具体的な施策が目新しく、”珍しい・不慣れな存在”である間は、顧客に対する主導権も握りやすく、ビジネスは展開しやすいでしょう。

 今後の課題としては

  • (本当の意味での)コンサルティングサービスに見合う付加価値を提供し続けるためのコアコンピテンスを確保/維持できるか
  • 事業拡大のスピードと内部管理体制の充実をバランスさせらるか
  • コンサルティングよりも育児支援等、「業務そのものの提供」を主とする“サービス業”的な領域で活躍する事業者は、顧客の値ごろ感に合わせ続けるコスト競争力を獲得できるか

などが挙げられます。

 ワークライフバランス施策の導入が一巡し、“ブームとしてのワークライフバランス”が過ぎ去ってからが本当の勝負どころです。

 ブームに惑わされず、「同業他社との競争に打ち勝ち、顧客に対して付加価値を提供できる力」をどれだけつけることが出来るかが問われます。