アカデメイア・オブ・コンプライアンス
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最終更新日: 2007年9月6日

人事のあたりまえを問い直す(1) 本当の人事評価、してますか?

 成果主義の名の下で経営数値に代表される経済指標に重きを置いて人を評価することを良しとする時代は終わりました。なぜならば、(一部の人を除き)誰もそのやり方や結果に真の満足を見出せていないし、経済合理性に依存しすぎたことによる様々な弊害が事故や不正となって現れているからです。

 ところで、識者を含め多くの人々が「人事評価は永遠の課題だ」などと述べていますが、本当にそうでしょうか?「人を人が評価する」という意味では確かにその通りです。しかし、そこまで言い切れるほど真剣に、手間をかけて評価を行った上での発言でしょうか・・・残念ながらそうではないと思います。

 その言葉の背後には「業績評価制度」「人事評価制度」という仕組みに依存し、

  • 成果とは何か?
  • 部下の行動や収めた結果をどう解釈するのか?
  • なぜ、そういう解釈をしたのか?

など、評価者としなけばならない本質的な問いかけを十分しないまま「人が評価するのだから所詮限界がある」とどこかで自分を納得させてしまう詰めの甘さ安易な妥協が見え隠れしているような気がしてなりません。そして評価した人もされた人もある種の不完全燃焼感を残したまま「まあ、評価とはこういうものだ」という半ば諦めに似た思いだけが蓄積している・・・つまり、徹底して考えることを放棄している・・・これが実態ではないでしょうか。

 もちろん評価する主体が人間である以上不完全さは必ず残りますが、それ自体を議論してもあまり意味がない。それは議論する問題と言うよりは、「当たり前のこととして受け入れる」べき事柄です。

 ところで、この「人事評価は永遠に不完全さをはらむ」という当たり前のことをどれだけの人が理解しているのでしょうか?実際は分かったつもりになっているだけではないでしょうか?

なぜならば本当に理解していれば「詰めの甘さを残したままの妥協に対する疑問」が芽生えます。心の中に安易な評価をした自分への恥じらいや自責の念が残ります。

 他の業務がある中で、人事評価ばかりに注力できるはずなどありません。そんなことは“あたりまえ”です。だからこそ、「人事評価は不完全だ」という、このあたりまえの事実しっかりと自覚すべきではないでしょうか。

 自覚していれば不完全な評価に対する後味の悪さが残ります。後味が悪ければ自ずと「どうしたものか」と考え始めます。この「どうしたものかと自分で考え続ける」ことこそ、現在の評価に欠けている姿勢と行動ではないでしょうか?

 繰り返しになりますが、評価する主体が人間である以上不完全さは必ず残ります。しかし、「どうしたものか」と自問自答し続ける本質的な思考により下した結論と、安易な妥協による結論では評価の信憑性や納得感が違ってきます。何より、自分の評価結果を部下に説明するときの迫力が違います。

 フィードバック面接等テクニックの研修も大切ですが、この種の研修をやればやるほど「技に走りたくなる」ものです。技に走れば走るほど我々は「考えなく」なります。そろそろ、このあたりまえを素直に受け入れ、手練手管に頼らない本物の評価能力を育成する時期に来ているのではないでしょうか。

人事のあたりまえを問い直す(2) 目標管理

 目標管理は仕事を計画的に行う一連のプロセスがパッケージ化された体系であり、評価制度ではないということは、マネジメントを多少なりとも学んだ人であれば知っていると思います。つまり、評価の手段として目標管理が用いられているわけです。

 さて、目標管理が上手くいっているという企業はどの程度あるのでしょうか?きっと、あまり無いのだと思います。「上手くいっている」という声を殆ど聞いたことがないからです。

 でも相変わらず、研修だけはやっているようです。では、そんなに研修を行っているのになぜ上手くできないのでしょうか?結局、“目標立てごっこ”をしているだけなのに、それで学んだと錯覚しているからではないでしょうか?

 目標管理シートの書き方、書かせ方に悩んでいる方に大事なポイントをお伝えします。目標管理の前提は、事業計画を「きちんと理解する」ことです。「きちんと理解する」とは、戦略や事業計画を一つのビジネスストーリーとして全社的な目線で解釈することです。

 そして、それらを「きちんと理解して」いなければなりません。「きちんと理解できている」とは、自社のビジネスストーリーを自分の言葉で説明できることです。これが出来ていれば、なぜ自部門の目標がそのような形で示されることになるのかも自ずと見えてきますし、自分や部下が収めるべき達成基準を具体的に記述できるようになります。

 目標管理が上手くいかないのは、「考えていない」からです。目標管理の研修も大事でしょうが、戦略をビジネスストーリーとして咀嚼し、それが自分の中に沁みこみ、自分の言葉ですらすら話せるまで事業計画書を永遠眺め続けてみたらどうでしょうか?

 シェフの試食なしでお客さんに新メニューを出すレストランはありません。まず人事部から、いや研修担当の人からやってみることをお勧めします。人事部や研修担当の人に教えて上げてください。

人事のあたりまえを問い直す(3) 評価基準

 評価をするには評価基準が必要です。評価基準は(当然のことながら)人事評価で使うので、思うように使いこなせない時は人事制度のせいにしたり、「もっと使いやすい制度にしろ」と人事部へクレームする社員が出たりします。特に定性的な評価についての評判は悪いと思います。
でも、ここで考えてもらいたいのです。本当に制度や人事部が悪いからなのでしょうか?昔は成果を念頭に置きながらも人柄や態度など属人性や要素に主軸を置いた評価が主流でしたが、今の評価は属人的要素はあくまでも補助項目であり、仕事そのものの出来栄えにその軸足が移されています。

 さて、ここで質問です。

  • 仕事のスペックを決めているのは誰でしょうか?・・・人事制度ではありません。
  • 仕事を部下に割り振っているのは誰でしょうか?・・・人事部ではありません。

それらを決めるのは、事業部門であり、上司であり、現場が決めるものです。

 つまり、仕事の評価基準は人事制度や人事部でなく、仕事そのものを与える当事者が決めるものなのです。「そんなことは分かっている」そんな声が聞こえてきそうです。でも分かっているのに、その通りに出来ていなのは何故でしょうか?

 評価が出来ないと不満をこぼす人は、実は人事評価が出来ないのではなく、仕事のスペックが決められない、分からないのです。仕事を与える当事者が「何を」「いつまでに」「どういう出来栄えを要求するか」を決めさえすれば、極端に言えば、人事上の評価制度など無くても仕事そのものの評価は出来ます。

 もちろん、仕事と人の評価は微妙に違います。ですから、やはり人事制度としての評価制度は必要です。人を評価するためのスキルも必要です。

 でも本当に大切なことは何か?表層に惑わされず、本質を見抜きましょう。

  • 評価制度がうまく機能しない
  • 管理職の評価能力が低い

 このような悩みを抱えている企業が直ちにやるべきことは、評価制度や評価能力のさらなる向上ではなく、“古い評価観の毀棄”と“新しい評価観の注入に全力を注ぐことではないでしょうか。

人事のあたりまえを問い直す(4) ノウハウの使い方

 世間には人事評価や目標管理のノウハウを紹介した本があふれています。ネット上でも研修会社やコンサルティングファームがノウハウ(ノウハウもどき?)の情報を提供しています。現に、ノウハウを求める人は大勢います。このサイトを見た人の中には「このサイト、ノウハウが出てない」と失望した人がいるかもしれません。

 ところでコンサルタントとして多くの人に接していますが、正直申しあげて、不思議でなりません。カーナビに頼れば頼るほど自分の肌感覚で道路を探る力が衰えるように、ノウハウに頼れば頼るほど自力でひらめく力とそれを導く嗅覚が衰えます

 こんなことは誰かに指摘されなくても、何となくは分かっているのだと思います。でも何となくではあっても分かっているのに、どうしてノウハウを求め続けるのでしょうか?

 問題の根は、この「何となく求めてしまう」というメンタリティーにあるように思います。さて、この「何となく」を許すとどうなるか知っていますか?

  1. 1つのノウハウを試す。
  2. 使い勝手が今一つとストレスを感じる。
  3. また別のノウハウを探し回る。
  4. これを繰り返す

という虚しい世界にどっぷりと浸かってしまうことになります。それで実力が付けばいいのですが、難しいと思います。ノウハウを求めることが悪いとは言いません。ノウハウは大切だし必要です。但し、使い方に注意が必要です。やるのであれば1つのノウハウを最低でも50回は使い続けて下さい。

 結局、解答は自分で見つけ出すものです。ノウハウはそれをサポートするだけです。さあ、このあたりまえにチャレンジしましょう。

人事のあたりまえを問い直す(5) M&Aと人事制度

M&Aによる企業合併等、組織再編に伴う人事コンサルティングの場に何度も立ち会いました。トップから担当者まで、クライアントは真剣かつ熱心にプロジェクトに取り組んでいました。成功させねばという強い使命感も持っていたと思います。

 その経験から見えてきたことがあります。
「新会社の(統一した)新人事制度はあまり早い時期に作らないほうがいいのかもしれない」

 なぜかと言いますと・・・

  • 業務プロセスや意思決定のルールなど、新組織としての経営のメカニズムがある程度安定的に動かないと(プロセスやルールが整備できた段階ではなく、それがきちんと動き始めてからでないと)、実際の組織の動きと等級や評価制度の間に乖離が生じ、混乱をきたす。
  • 報酬水準を合わせるなどの必要性はもちろんあるが、無理をして合わせたところで、新しい組織がうまく機能することへの貢献は薄い。(「人事」としての閉じた世界の中では意味があるし、満足するであろうが)
  • 新人事制度に対するおおかたの社員の評価・評判は、制度そのものよりも、新組織の職場の実態(統合後の新しいミッションや戦略通りに実際の組織が動いているか、上司はそれに相応しい発言や行動をしているか、等)によって左右される。

 平たく言えば、「新人事制度を早く作り、形を整えることによるメリット」と「新人事制度を早く作らず、形を整えることを後回しにすることによるデメリット」を比べると、早急に形を整える必要性があるのだろうか、後者の方が賢明ではなかろうか、と思ってしまうのです。

 仕組みをつくると、なんだか「やった」気分になります。でも本当にやるべきことは仕組みを作ることではありません。仕組みを作ったがゆえに、その後にやるべきことが出来なくなってしまっているというパラドックスが起こっているような気がしてなりません。

人事のあたりまえを問い直す(6) 目標管理シートの書き方

 目標管理シートの書き方が分からない時、目標管理について調べたり勉強したりする人がいます。確かに、それも一つの方法だとは思います。でも、「あれで本当に目標管理シートが書けるようになるだろうか?」と思ってしまいます。

 なぜなら目標管理シートが書けないのは目標管理が分からないからではないからです。目標管理シートは何を書くためのシートか?・・・目標管理シートの書き方が分からないと悩んでいる方は、この問いを素直に自問自答してみて下さい。

 そう、目標管理シートは仕事の目標を書くためのシートです。これは言うまでもない。しかし何となく分かったつもりになっただけで済ませてはいけません。

 大切なのは「何の目標か」ということです。問うのであれば、これを問うべきです。つまり、目標管理シートが書けないのは目標管理が分かっていないからではないのです。

  • 自分の目標管理シートが書けないのは、自分の仕事を漠然としか捉えていない/抽象的にしか理解していないからです。
  • 部下の目標管理シートをきちんとチェック出来ないのは、部下の仕事を漠然と捉えている/抽象的に理解しているからです。

 目標管理シートをきちんと書くための知識は、目標管理制度導入時の説明会資料のレベルで十分です。それと大差ないことをもう一度学ぶ時間があったら、自分や部下の仕事を具体的に把握・理解・言語化(=文字化、文章化)することにエネルギーを費やした方がよほど有意義です。

 高度なテクニックは不要です。誰でも知っている「5W1H」を用いて頭の中で仕事を具体的に展開し、それを文字化すれば良いのです。それが出来ないから(困って)このページを見ているんだ!と言われてしまいそうですね。そんな方にお答えします。

「貴方が捻り出すしかないんです」と。

 書けない理由は貴方が「手間をかけること」を面倒に感じ、考え抜くことから逃げているからなのです。だからどんな本やホームページを見たって無駄です。

結局、自分から逃げずに考えるしかないんです。

 これをやると、「当たり前のことを当たり前にやるということが如何に難しいか」や、「それが観念の世界に放置されたままで日常業務が行われているか」に気付き、自分の弱点や強化ポイントが見えてくるというおまけまでついてきます