アカデメイア・オブ・コンプライアンス
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組織問題の反転思考(1) リーダーシップの誘引術

 「リーダーシップ不要!」という組織はないと思います。事実、書店へ行けばリーダーシップの理論やノウハウを説いた本が山積みになっているし、その手の本を真剣な眼差しで品定めしているビジネスパーソンを見かけることも珍しくありません。

 しかし、そういう情景を目にする度に思うことがあります。リーダーシップを発揮する/させることはそんなに難しいことなのでしょうか?

 別に意地悪を言おうとしているのではありません。現に、リーダーシップをテーマとしたコンサルティングも少なからずやっておりますので、難しいという現実があるということは重々承知しています。

 しかし、だからこそ余計そう思うのです。「リーダーシップを発揮する/させることはそんなに難しいことなのだろうか?」と。

 いまさら言うまでもないとは思いますが、念のためにここで言うリーダーシップの概念規定をしておきましょう。他者の思考や行動に影響を与えること・・・これがリーダーシップです。

 ”他者の思考や行動に影響を与えること”。こう書かれてしまうと何だか難しく聞こえてしまいますが、これって、人間が複数集まればごくふつうに出現する精神的/行動的作用ではないでしょうか。

 では、このような「普通に出現してもおかしくない作用」がなぜ現実にはなかなか出現しないのか?現場を見たことによる臨床感覚で類推するに、その理由は以下の2つにあるように思います。

  1. 他人に影響を与えるに相当するだけの“意思”と“意志”が無い。(本人要因)
  2. 他人、特に自分より地位・専門性・経験が低い/少ない人を一個の人間として尊重し、真剣に対峙・勝負し、そこから学ぼうとうする真摯な態度が欠如している。(環境要因)

 分かりやすく言えば、「本当に言いたいことが無い・わざわざ言うほどの熱意がない」から、或いは「言おうとしている人の気持ちを挫けさせるような周囲の態度がある」から、リーダーシップが発揮できない/されないのではないでしょうか。

 リーダーシップの理論書やノウハウ的実務書もいいですが、リーダーシップを発揮すべき側もそれを受ける側も、あまり理論やノウハウを求めすぎないほうがいい。

  • [言いやすい/行動しやすい] 雰囲気
  • [言うに値する/行動するに値する] 必然性
  • [言おうとする/聞こうとする] 意志

この3つさえあれば、人は自然にリーダーシップを発揮するものです。

組織問題の反転思考(2) スペシャリスト(高度専門職人材)の動機付け

社員のモチベーションアップを考える時、多くの人が「報酬を高めること」に気をとられます。しかし、高い知的水準を求められる高度専門職人材に対しては、「お金で釣る」ようなことをしてはいけません。

 なぜなら、本当のスペシャリストはお金では満足できないからです。本当のスペシャリストは「仕事それ自体」に何事にも変えがたい興奮と満足を見出す“変わった人種”なのです。

  • スペシャリストは他人からあれこれ言われることを嫌います。思考や精神の自由を縛られるととたんにモチベーションが下がります。
  • スペシャリストにとっての究極の満足は「自己満足」です。他人がどう評価するかではなく、自分の美意識に適うレベルで仕事が仕上がったときに最高の充実感を感じます。

 弁護士であれ、会計士であれ、企業内の高度専門職であれ、これに当てはまらないようであれば本当のスペシャリストではありません。

 良し悪しではないのです。お金ではなく、精神的自由や自分の美意識が満たされた時の自己満足を選んでしまう人種・・・それがスペシャリストなのです。

 でも、スペシャリストとて人の子です。高額な報酬を目の当たりにすると目がくらみます。でもそれに釣られて入社しても、燃えるような充実感は得られず、やる気が緩むか次の職場を探し始めます。

 経営者や企業の人事担当者の方々、ご注意あれ。

組織問題の反転思考(3) ダメな組織 駄目な会社って・・・

 仕事柄、多くの企業の実態をあからさまに目にします。そこから見えてきた偽りなき実感を紹介します。

  • 駄目な会社は、一見あたりまえにみえる些細なことを疎かにします。
  • 駄目な会社は、相手に「やります」と言ったことをやらずに曖昧なままで次に進もうとします。
  • 駄目な会社は、仕事が個人に埋没しておりチームワークが機能していません。
  • 駄目な会社は、これら基本的なことが出来ていないにもかかわらず、あるべき姿を示したスローガンを部下に押し付けています。

 結局、駄目になるには駄目になる理由があるのです。でも駄目な会社はそれを直視しない。それと愚直に対峙せず逃げてしまう。だからダメな会社になるのです。

 駄目な会社ほど、うわべだけを見、うわべだけを追うんです。
そんな会社に必要なのはうわべだけのあるべき姿ではなく、徹底してどん底に落ちる現実です。

 再生はそこから始まります。

組織問題の反転思考(4) 人員削減(リストラ)しないと宣言するのであれば

 実際にリストラした会社に匹敵するくらい(或いはそれ以上)業績が悪化しても「解雇や人員削減はしない」という会社があります。いい会社だと思います。従業員を解雇しないで済むのであればそれに越したことがないからです。

 でもそんな“いい会社”の内情を見てしまうと少々認識が変わります。そしてつくづく思います。

『善意』 と 『ぬるま湯』は紙一重。
“悪意以上の悪意”を内に秘め悪人になりきらなければ、善意は決して結実しない。

つまり

  • 業績が悪化した会社には、「会社に残るべきではない人材」がいます。
  • そのような人材は、思考や行動の質が高いとは言いにくい。
  • 業績を回復させるためには、全ての社員が自分たちの限界を超えた、これまで経験したことのない想像を絶する質と量の仕事を繰り返さねばならない。
  • 会社に残るべきではない人材とて、これを避けることは出来ない。

 何が言いたいか分かりますか?

  • 業績が悪化しても解雇をしない会社の経営者は、会社に残るべきでない社員を活用せねばなりません。
  • 業績が悪化しても解雇が行われない会社の上司は、会社に残るべきでない人材(部下)を実際に使いこなさなければなりません。
  • 業績が悪化しても解雇が行われない会社の「会社に残るべきではない人材」は、解雇される以上の苦しみ(努力・忍耐・自己犠牲)に進んで甘んじなければなりません。

にも関わらず、実際は

  • 業績が悪化しても解雇をしない会社の役員は、会社に残るべきでない人材を活用する実務を「それはお前の仕事だ」と言い放ち、部長以下の管理職へ丸投げする。
  • 業績が悪化しても解雇が行われない会社の管理職は、会社に残るべきでない部下を使いこなせず、結果として、その他部下の業務量や負担を増やす。
  • 業績が悪化しても解雇が行われない会社の「会社に残るべきでない人材」は質・量・スピード等の難易度が高い業務について行けず、ますます周囲のお荷物となる。

 会社に残るべきでない人材を抱えるということは、会社に残るべきでない人材を使いこなすという、解雇する以上の苦労を引き受けるということです。

 「辞めて欲しい」と言わねばならない立場の人も、「辞めてくれ」と言われてもやむを得ない立場の人も、この当たり前の事実を直視しなければなりません。

 そのくらいの覚悟と実際の苦闘がなければ、善意は結実しないのです。これは綺麗ごとでもなく、精神論でもなく、ただの現実です。